PROFILE
三 島 有 紀 子
Yukiko Mishima
映画監督/Film maker
大阪市出身。18歳からインディーズ映画を撮り始め、大学卒業後NHKに入局。「NHKスペシャル」「トップランナー」など市井の人々を追う人間ドキュメンタリーを数多く企画・監督。03年に劇映画を撮るために独立しフリーの助監督として活動後、『しあわせのパン』(12年)、『ぶどうのなみだ』(14年)と、オリジナル脚本・監督で作品を発表。撮影後、同名小説を上梓した。企画から10年かけた『繕い裁つ人』(15年)は、第16回全州国際映画祭で上映され、韓国、台湾でも公開。その後、『少女』(16年)を手掛け、『幼な子われらに生まれ』(17年)では第41回モントリオール世界映画祭で最高賞に次ぐ審査員特別大賞に加え、第41回山路ふみ子賞作品賞、第42回報知映画賞では監督賞を受賞し、好評を博した。ドラマでは、桜木紫乃原作の『硝子の葦』(WOWOW)を監督。
Director and screenwriter Yukiko Mishima's career spans nearly three decades, having started by writing and directing human documentaries for television. Her first feature film, The Tattoer, was released in 2009 and is based on Junichiro Tanizaki's literary classic. Since then, Mishima had directed a further seven feature films, Bread of Happiness (2012) and A Drop of the Grapevine(2014) as well as A Stich of Life (2015) which was screened as part of the Japan Foundation Touring Film Programme 2017. Dear Etranger (2017), also one of the feature films in this year's Japan Foundation Touring Film Programme, is Mishima's sixth film which won the Special Grand Prix of the Jury Award at the 2017 Montreal World Film Festival.
映画
▶ 刺青 匂月のごとく(2009年) 監督
▶ しあわせのパン(2012年、アスミックエース) 監督・脚本
▶ ぶどうのなみだ(2014年、アスミックエース) 監督・脚本
▶ 繕い裁つ人(2015年1月31日、ギャガ) 監督
▶ 短編集 破れたハートを売り物に(2015年、KADOKAWAショウゲート)
▶ 「オヤジファイト」監督・脚本
▶ 少女(2016年10月8日、東映) 監督・脚本
▶ 幼な子われらに生まれ(2017年8月26日、ファントム) 監督
▶ ビブリア古書堂の事件手帖(2018年11月1日、角川/FOX) 監督
▶ Red(2020年2月21日、日活)監督・脚本
▶ よろこびのうた Ode to Joy 《DIVOC-12収録短編》 (2021年10月1日、ソニー・ピクチャーズ) 監督・脚本
▶ IMPERIAL 大阪堂島出入橋 《MIRRORLIAR FILMS SEASON2収録短編》(2022年2月18日、イオンエンターテイメント) 監督・脚本
テレビドラマ
▶ D×TOWN「心の音-ココノネ-」(2012年8月10日・17日・24日・31日、テレビ東京)監督・脚本
▶ 石坂線物語「華の火」(2012年10月、NHK) 監督・脚本
▶ 中京テレビスペシャルドラマ「レディレディ〜トイレで泣いたこと、ありますか?〜」(2013年12月22日、中京テレビ) 監督(東京ドラマアウォード2014年ローカル・ドラマ賞受賞作品)
▶ ドラマW「硝子の葦」(2015年2月、WOWOW) 監督
▶ 連続ドラマ「KBOYS」(2018年10-12月、ABC朝日放送テレビ/GYAO!配信) 監督
▶ NHKドラマ10「半径5メートル」(2021年4-6月)チーフ演出
ドキュメンタリー
▶ 街からの風〜冬・大阪・ロック歌手BORO(1993年)
▶ NHKスペシャル
▷『配達された幸せ』(1994年)
▷大震災から三週間〜この街で生きたい(1995年)
▷関西の惑星
▷青春探検
▶ ETV特集
▶ アジア発見
▶ ソリトン
▶ トップランナー
著作
▶ しあわせのパン(2011年、ポプラ社)
▶ しあわせのパンの季節(2012年、PARCO出版) 映画シナリオを収録
▶ ぶどうのなみだ(2014年、PARCO出版)
▶ ぶどうのなみだの風景(2014年、スペースシャワー) 映画シナリオを収録
The World of YUKIKO MISHIMA
三島有紀子の作品は、娯楽作品であると同時に、〝人生に突然起こる理不尽〟や〝不平等からくる理不尽さ〟といった社会問題や「なぜ生きているのか?」という哲学的思考を映画にぶちこもうとする、日本では稀な作家のひとり。結果、あたり前に見える日常を緻密なディテールで描きつつ、現代社会にある覆いきれない理不尽を観客に共有させる。世界各地での劇場公開は、現代人がすべからく抱える問題を抉りだしている証左でもある。
三島は、4歳から親に連れられ名画座に通い、邦画洋画の古い名作(デイヴィッド・リーン、フランソワトリュフォーなど)に多く触れる。10歳から映画監督を目指し、18歳の時8㎜フィルムでインディーズ映画を撮り始める。大学卒業後、企画や作品が認められ、名門であるNHK(Japan Broadcasting Corporation)に入局。同局の General TV、Educational TV でドキュメンタリー作品を多く監督。服飾デザイナーであるコシノファミリーの作品では、全員がデザイナーのため熾烈な戦いの関係から、家族として結びつきが生まれていくプロセスを見つめ、映像では色が与える視覚的効果を打ち出している。二年という月日をかけ老女と子供の文通を追いかけた作品では、日本での老いの悲しみと日本人の手紙で本心を語るという独特のコミュニケーションを日本の地域文化とともに浮き彫りにした。
転機となったのは、神戸を取材した阪神淡路大震災である。不意に訪れた理不尽な生活の中でも、日常を真摯に生きていく姿を追いかけ、〝日常の軋み〟こそが映画で描くエッセンスだと感じ、それまで企画していたドキュメンタリー作品をすべて作ってから2003年33歳でNHKを退社。伝統ある京都の東映撮影所( Toei studios Kyoto )で、助監督として日本映画作りの基本を学ぶ。その後、NYでのHBスタジオ( The Herbert Berghof Studio of New York )講師陣によるサマーワークショップに参加し、演技の基本について学ぶ。そして、外から見た日本の特徴、〝血のつながりを重んじる文化から生まれる理不尽さ〟について考えはじめる。帰国後、短編映画を監督、舞台の脚本を書くなどキャリアを積み2009年40歳の時、谷崎潤一郎原作『刺青 匂ひ月のごとく』で長編監督デビュー。オリジナル脚本で監督した二作目『しあわせのパンBread of Happiness』( 2012 )は、震災の避難所で感じた〝share〟というテーマをパンを分けるカットで執拗に描き、小説も上梓。映画ともに日本台湾韓国でもヒット。2015年『繕い裁つ人A Stich of Life』では、家と伝統に縛られたドレスメーカーの女性が、閉じ込めていた自分を解放し自分の人生を生き始める姿を家の古時計のようにカメラを据え、長い歴史と伝統の中での抑圧と解放を見つめた。2017年『幼な子われらに生まれDear Etranger』では、子連れ同志の再婚であるパッチワーク家族に新しい命が生まれるまでを描き、ただ一人血のつながらない父親は家族の中で「不在」なのか?と問いかけた。第 41回モントリオール世界映画祭審査員特別大賞(the Jury's Special Grand Prize at the 41st Montreal World Film Festival)、韓国全州映画祭(an official invitation to the Jeonju International Film Festival)など、20カ国以上の国で上映され、国内外で受賞。2020年『Shape of Red』は、現代版「人形の家」(Henrik Johan Ibsen)であり、女性の自立を、ラブロマンスを通して描いてみせ、2022年3月に『The HOUSEWIFE』(ART HOUSE)のタイトルでフランス公開を果たした。まさに、嫁ぎ先の家を牢獄のように捉えており、緻密な色設計で心情を表現、女性が車のハンドルを握る姿を象徴的に撮る。最新作の短編『Ode to Joy』は、名優富司純子Sumiko Fujiを迎え、コロナ禍での老女と青年の犯罪バディものをほぼ色のない映像で描き、世界中のあらゆる世代が感じている理不尽さがにじみ出るアート作品。イタリアカフォスカリ短編映画祭でマスタークラスとして招待され上映された。「犯罪を犯すという恐怖を共有した二人が、その先に愛を見つけた、強く希望を感じる作品」と評された。